癌細胞とは、もともと私たちの身体の細胞が何らかの理由で傷つけられるなどして、異常な状態になり、勝手に増殖するようになってしまったものです。
人間の身体の細胞は６０〜７０兆個あるといわれていますが、一説によれば毎日３０００〜６０００個の細胞がこのような異常な状態になり、健康な人の身体の場合はそれを身体の免疫力が抑えていると言われています。
この抑えるという作用がリンパ球の力なのか、あるいは細胞自身に組み込まれた自滅（アポトーシス）作用なのかはまだ解明されていません。
いずれにしても、この異常な細胞が生き残り、勝手に（無分別に）増殖を始めたのが「癌細胞」です。
癌細胞はどんどん分裂を繰り返し、増殖してその異常な細胞を増やして行きます。
そして、その増殖の過程で養分が必要なため、特に腫瘍を形成するタイプでは養分を取り込むために勝手にあらたな血管まで形成してしまいます。
これが血管新生といわれるもので、癌組織の周りに血管が集中する理由です。
癌細胞には、一般的に「癌」といわれる、かたまりを形成する「固形腫瘍」と、血液や造血組織の病変（白血病、リンパ腫）があります。
そして固形腫瘍には、癌腫（カルシノーマ)と肉腫（サルコーマ）があります。
白血病とリンパ腫は、血液と造血組織の癌です。かたまりをつくらず、1つ1つの癌細胞がバラバラのまま存在するのが特徴です。
この癌が増殖し、骨髄や血流内で正常な血液細胞よりも数の上で優勢になると、正常な機能を担う細胞が徐々に癌性の血液細胞に置き換わり、身体が蝕まれていきます。
癌腫（一般的に癌とよばれるかたまりを形成するもの）は上皮細胞の悪性腫瘍です。上皮細胞とは体の表面を覆う細胞で、ホルモンを分泌し、さまざまな分泌腺をつくっています。
癌腫には皮膚癌、肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌、前立腺癌、甲状腺癌などがあり、一般的には若い人よりも高齢の人に多く発生します。
肉腫は上皮の内側にある中胚葉由来の細胞の悪性腫瘍です。中胚葉由来の細胞は筋肉や結合組織を構成しています。
肉腫の例としては平滑筋肉腫（消化器の壁にみられる平滑筋の癌）、骨肉腫（骨の癌）などがあります。
肉腫は一般に、高齢者よりも若年層に多発します。
癌細胞は無分別に増殖を繰り返し、その場所がいっぱいになると、血流にのって他の場所に移動します。
これが転移で、癌細胞のやっかいな部分のひとつです。
癌細胞のもうひとつやっかいなところは、もともと自分の細胞が変化したもので、人間の身体にとって異物ではないというところです。
つまり細菌のように、人間の身体から見て異物であれば、抗生剤などの薬物でその細菌だけを殺せば良いのですが、同じ身体の細胞なので、その癌細胞だけを殺すことがむずかしいわけです。
そこで、外科的手術でその悪い細胞を切り取る、あるいは放射線、ラジオ波などで焼き殺すという治療が主流になってきたわけです。
ところがこれらの方法では、どこに癌細胞があるのかが明確であれば良いのですが、転移してしまって、身体のどの部分に潜んでいるのかがわからない場合はどうしようもないということになってしまいます。
そのような場合には、癌細胞を殺す毒薬を身体に入れ、血液にのせて全身を回すことになるのですが、前述したように癌細胞と正常細胞はもともと同じ細胞なので、癌細胞を殺す薬は、正常細胞も攻撃してしまうわけです。
こうして癌細胞について考えると、癌治療のむずかしさがわかるのですが、どうすれば癌細胞を消滅させられるかというヒントも見えてきます。
もともと自分の身体の細胞が異常をおこしたのだから、もとの正常な状態に戻すことができれば、癌細胞という異常な細胞がなくなるはずですよね。
ところが、どうすれば元の状態に戻すことができるのかがだれも解明できていないわけです。
今から２３年ほど前の昭和６３年頃、TNFという物質が話題になりました。
この物質はある種のタンパク質ですが、この物質が癌細胞を元の正常細胞に戻すはたらきがあるというので、研究機関で研究されていて、私も非常に期待していたのですが、いつのまにか立ち消えになってしまいました。
人間の身体の細胞には、古くなったり異常が起きると自分で死ぬ（アポトーシス）作用があると言われています。（皮膚を擦るとアカがでるのは、古くなって死滅した皮膚細胞）
例えは悪いかもしれませんが、太平洋戦争時の沖縄戦を戦っていた日本兵や、スパイなどが自殺用の毒薬を持たされていたようなものかもしれませんね。
癌細胞は異常が起きてしまった細胞なので、このスイッチがはいらなくなってしまっているのだと考えている学者もいます。
癌細胞にこのスイッチを教え、自分でいれさせることができれば、癌は消滅するはずです。
いろいろな方面から癌細胞を消滅させる研究がすすめられているので、
癌が恐ろしい病気ではなくなる日がくるのも、そう遠いことではないかもしれません。
癌の最新治療情報集「癌と闘うために」は、このやっかいな癌細胞と闘う最善の方法が見つかるように、あらゆる有望な治療法を集めました。
２０１４年最新ニュース： 癌細胞を正常細胞に戻すことができた
鳥取大学医学部病態解析医学講座 薬物治療学分野の三浦典正 准教授らの研究チームが
クローニングしたRNA遺伝子に関連して発言変動する単一の「マイクロRNA」を悪性度の高い
未分化がんに導入したところ、容易に悪性度を喪失させることができ、正常幹細胞へ形質転換できることを発表しました。（研究の詳細な内容は英オンライン学術情報誌「Sｃientific Reports」に１月２４日付けで発表）
研究の詳細については極めて専門的になるので、簡単に説明すると悪性度の高い低分化のものほど
容易に良形性質になりやすいこと、末期的な癌細胞にも効果が期待できるとのことです。
このRNA分子を使った製剤ができれば、癌細胞を殺すというこれまでの抗癌剤とは全く違うアプローチで、癌細胞を正常細胞に戻すという理想的な抗癌剤ができる可能性があるということです。
そのような薬が完成するにはまだ時間がかかると思いますが、近い将来「癌は薬で治る」時代がくることを、願わずにはいられません。
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